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ジグ・ノート

備忘録のような形でつらつらと…

信じてみる

雑感

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昔、あちこちの温泉に連れて行ってもらっていた時期がある。20才とかせいぜい25才とかの頃だ。俺と直接の師弟関係はない大学教授と知り合い、その人が「ひとりで行ってもつまらないし」と、俺と友人を誘ってくれたのだ。年にそんなことが2,3回あっただろうか。

 

小谷温泉、北温泉奥鬼怒加仁湯、別所温泉などなど。ここぞと決めた温泉街に電車でトコトコ向かい、駅前の公衆電話から当たりをつけた温泉宿に電話を掛ける。

 

どこかで内田百閒の『阿房列車』を意識していたと思われる珍道中だ。

 

「いや、学生がいるもんですからね、あんまり高くなくて、えぇ、5000円くらいで泊めてもらえるとありがたいのだが…」とかだ。

 

昔の話とはいえ、夕食を付けて一泊5000円で良いですよって言ってくれるところはけっこうあった。その交渉が上手くいかないとセンセイは「ごめんな。7000円だ」と恐縮していた。

 

こっそり持ち込んだ地酒を飲み、缶詰を開けて茶碗酒をダラダラと続ける。温泉に入り、また飲み、ウトウトしてまた飲む。あんなこともう出来ない。

 

そんな酔いながらの話の中で、女の話になった。俺が「付き合ってる女がなんか信じられないんだ」みたいな愚痴をこぼした時、友人がこう言った。「信じられない女をエイヤって信じちゃうってのが格好良いんじゃないか?裏切られるってリスクを冒しても思い切って信じちゃう」

 

俺は、それは他人事ならそう言うよな的な不承不承の顔をしていたと思う。その瞬間、さっきまで浴衣の股に掛け布団を挟んで明らかに眠っていたと思っていたセンセイが、突然ムクッと起き上がり「イエッス、イエッス。イグザクトリー」と叫んだ。

 

「信じられるものを信じるなんてことに何の価値もない。信じるということに意義があるとしたら、不確かなものを敢えて信じるという飛躍の中にあるのじゃ」

 

そして「ふう」と溜息を吐くと再び股の間に掛け布団を挟み込んで横になった。

 

山に囲まれた鄙びた温泉宿だ。