ジグ・ノート

備忘録のような形でつらつらと…

八五郎出世 三遊亭円生

 

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落語を意識的に聞くようになったのは、何時頃からだろうか。家にあった古今亭志ん生の『貧乏自慢』にソノシートが付いていて、そこに収録されていた「蛙の遊び」を聞いたのが最初だと思う。今でも探せば、そのソノシートはどこかにあるのかもしれない。

 

例の父は年末になると「芝浜」と「富久」を聞くことにしていると言っていた。誰のとは聞かなかったけれど、「芝浜」に関しては3代目の三木助の江戸弁が好きだとは言っていた。

 

俺は志ん朝の独演会に行って聞いたのは「芝浜」だったか。忘れてしまったけれど、ちょうどその日に、山藤章二がやはり聞きに来ていた。

 

父以外の誰かと落語についての話をすることはなかったけれど、20代になって、アメリカに留学していた友人が一時帰国した時に、「お前、これ聞いたことあるか?」と円生の「八五郎出世」をカーステレオで掛けてくれた。その時初めてこの落語を聞いたのだけれど、とても面白かった。実は彼の車中でホロリとして、大笑いされたのだ。

 

大笑いされはしたけれど、彼だってその人情話が好きだから俺に聞かせたのであって、ある空間と意識が共有された。

 

こんな話だ。

 

八五郎の妹がひょんなことから殿様に見初められ、やがて世継ぎを生む。妹はこれが兄の出世の端緒となればと、殿様にお目通りを願う。がさつな兄は殿中でも普段のべらんめえ調の言葉遣いと態度を変えることが出来ない。意識はするがそれをたしなめる老中の三太夫とのやり取りを中心に滑稽さを生むことになってしまう。しかし虚飾や腹蔵のない態度が殿様の気に入られ、登用される。身分が違うから孫の顔を見ることのかなわない母(ばあさん)への気持ちとか、御殿で綺麗に着飾った妹を見る八五郎の心情などが良い感じで描かれる。(自分で梗概を作ってみた)

 

NHK落語名人選(41) 六代目 三遊亭円生 八五郎出世・夏の医者

NHK落語名人選(41) 六代目 三遊亭円生 八五郎出世・夏の医者

 

彼がどこでどうやってこの話に出会ったのかは知らない。ただ、俺の勝手な想像だけれど、アメリカでの生活の中で、日本語に対する郷愁のようなものから、落語を聴き始めたのではないか。俺は俺で、一人暮らしをするようになっていて、ひょっとすると1日誰とも会話をしないこともあるような生活の中で、「会話」に飢えて落語を積極的に聴き始めていたのだ。

 

そんなある日、例のジャズ・バーのカウンターで隣り合わせたジャズ・ボーカリストの方と落語の話になった。すると彼は興が乗った勢いで、この「八五郎出世」円生バージョンを演じ始めた。要するに耳コピーしていたのだ。なんだ、みんな知ってるのかと思いおかしくなった。しかし、カウンターでケタケタと笑いながら「落語を聴き始めざるを得ないような独りの時間」と考えた。

 

ジャズマンが落語好きなのは、山下洋輔のエッセイにもよく出てくるけれども、それぞれがそれぞれの場所で独りの時間を過ごす中で、落語だけがよすがになるような孤独というものがあるのかも知れないなと思ったのだ。