ジグ・ノート

備忘録のような形でつらつらと…

電車の神様

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この話は往路と復路で別々の話である。別々なのだがどこかでつながっているような気がする。

 

まずは往路、都内某所で会合が持たれた。中国に単身赴任中の友人が一時帰国するというのだ。それまで随分と疎遠になっていたのだが、今時らしくFacebookで繋がりが復活して、そうなってからは初帰国だ。俺は彼と再会するのは30年ぶりだ。当時、年中集まっていた東京下町の居酒屋で再開しようということになった。

 

ぼんやりと電車に乗りながら、彼と遊んでいた頃のことを思い出していた…というわけじゃない。そうやって久しぶりに会うという企画には2パターンの決着があって、久闊を叙し、以前に変わらぬ親密さを確認する場合と、互いの間に流れた時間から生じた齟齬から後悔を感じる場合とだ…そんなことを考えていた。

 

電車はまだまだ走り出したばかりだ。俺の住む郊外の町から目的の居酒屋の町までは1時間30分ほどかかる。

俺の向かい側の席に座っている黒人が、iPhoneを取り出し、隣の女の子に何かを確認している。女の子も一生懸命に答えているんだけれど、なかなか埒が開かないようだ。

 

ちょっと差し出がましいようだけど我慢が出来なくなって、拙い英語で話しかけると女の子が「六本木に行きたいって言うから、このまま乗って行って、5つ目で乗り換えろって言ってるんだけど…」とある駅の名前を挙げた。

 

聞いてみると、彼はその路線は値段がちょっと高いからこっちのルートで行きたいのだと俺にiPhoneを示した。あぁ、そうかと、3つ目の駅で降りて改札を出て、別な路線に乗り換えて、もう一回乗り換えてと俺なりに一生懸命頑張って説明した。すると「ああ、ありがとう…俺の国では、誰もこんな風に親切にしてくれないよ。自分で考えろ!それで終わりさ」なんて感謝された。「この電車に乗るのは、まだ2回目なんだ」とも。

 

降り際に彼は俺の手を握りまでして「本当にありがとう」って言った。

 

それが往路の出来事。ちょっと人に親切にしちゃったかなって自慢話だ。

 

飲み会は前者の方で和気あいあいとした雰囲気に満たされた。懐かしいだけではなく、互いの現状を認め合う。端的には、変わんねぇなぁって言いながら、ビールから始めて焼酎のお湯割りとグラスを運び、ボトルが並び、2次会へと流れ、俺は殆ど記憶がなくなりつつあったということだ。おぼろげになっていく脳裏で、ただ、その店で吉田類がプライベートで呑んでいたことは覚えている。

 

吉田類の酒場放浪記 5杯目

吉田類の酒場放浪記 5杯目

 

そして復路。大陸弾道ミサイルのように、一気に飛んで行く最終列車で俺の町にひとり帰る。うっかり終点まで行ってしまうと終夜を過ごす施設はない。キャベツ畑と星空があるだけだ。そしてその底にタクシーが、獲物を狙うサメのように息を潜めている。乗ると1万円コースだ。

 

俺はすっかり眠り込んでいた(ようだ)。一度、ふっと目を覚ましたが、家の駅まではもう10分ほどある所だったので、また眠り込んでしまった(ようだ)。

 

「ねぇ、ねぇ、降りないの?もう過ぎちゃったよ。なんで降りないの?」

 

そうやって揺り起こされてみると、俺は既に一駅乗り過ごしていた。目の前に立っているのは金色に髪を染めた女の子だった。(ような気がする)あそこで起こしてもらえなかったら、ずっと先の終点まで寝過ごしていたはずだ。今となってみては、あの女の子が本当にいたのかも定かではない。あれは電車の神様が俺を助けてくれたんだ。

 

そのままひと駅分歩いて家に辿り着き、次に気が付いた時は、床にパンイチで横たわっていた。そしてトイレに駆け込み便器を抱え、やがて朝を迎えた。

 

いい年をして、何が電車の神様だ。翌日は二日酔い様のタタリにあって、半日仕事にならなかった。あらかじめ半休を取っておいた俺は、賢明なのかそうではないのか。大人になると、色々と分からないことが増える。