ジグ・ノート

備忘録のような形でつらつらと…

瀬戸ちゃん(仮名)に教わった

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学生の頃、木工場でバイトしていた。何か汗をかくような仕事がしたかった。木を切って、接着剤を塗って、強度を出すために補強材を裏打ちして、下水処理場の蓋を組み立てていた。

 

50メートルプールぐらいの大きさの処理場があって、それは下水だからとても臭くて、そこにする蓋だ。1枚で覆える大きさじゃないから、縦2メートル、横50センチくらいの小さい木箱みたいなものを何百となく作って、覆っていく。その50メートルプールの処理場も幾つもあるわけだから、俺はひと夏その蓋を作り続けた。

 

納品にその処理場に行くと、それまで使っていた蓋を外し、俺たちが作った新しい蓋をそこに置いていく。古い蓋は汚水で汚れている。「大学まで行って、ウンコ手掴みにしなくちゃならないとは思わなかったろ」と笑われた。俺も笑った。

 

そこに瀬戸ちゃんって奴がいた。俺は彼に仕事を教わっていた。瀬戸ちゃんは中卒で、その工場に就職してもう何年も経っていた。基本的に単純作業だから、接着剤を混ぜながらとか、その蓋に人工芝を貼るような仕上げの段階になると、くだらないおしゃべりをしながら、冗談を言いながら、大笑いして作業をしていた。

 

ある日、何があったわけではないのだけれど、その瀬戸ちゃんの態度が癪に障って仕方がなくなった。あまり長い時間を一緒に過ごしすぎたのかもしれない。昨日まで大笑いしていたような冗談を同じように言われても、なぜかカチンときて笑えない。イライラして仕方がない。一度そう思い始めると、目も合わせられなくなる。顔もみない。そんな状態1週間ほど続いた。

 

なぜ1週間ほどだったのか、俺は覚えていない。俺が覚えているのは、話すきっかけを失ったまま、黙々と作業を続けるしかなくなった俺に、その瀬戸ちゃんがいきなり近づいて来て、「爆風スランプの新譜、聴いた?」って、それまでの沈黙の1週間なんか明らかに無視して、話しかけてきた。

 

俺は「あ、聞いた」って答えて、俺と瀬戸ちゃんは、全く元通りにバカ話をするようになった。ずっと年下の瀬戸ちゃんに膠着した人間関係を打開する方法を教わったのだ。

 

知らんぷりして突っ込んで行くこと。

 

あの時、接着剤をかき混ぜながら、一歩俺の方に踏み込んできた瀬戸ちゃんの安全靴の音が今でも聞こえるようだ。