ジグ・ノート

備忘録のような形でつらつらと…

さあもういっぺん

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遠くに住んでいる女の子を送って行って、乗換の駅まで戻ってみたら最終がなくなっていたことがある。渋谷という駅で乗り換えて、田園都市線に乗る。伊勢原の方に住んでいる彼女を、その途中まで送った。途中駅のベンチに座って高校生みたいにあれこれおしゃべりをして、彼女は更に電車に乗って帰って行った。

 

池袋に下宿している頃だ。

 

彼女は友人の結婚式に出席した後で、引き出物の鯛やソーセージの詰め合わせみたいなものを「栄養、取りなよ」なんて子猫の顔で笑いながら俺にくれた。

 

俺はそれをブルンブルンぶら下げて渋谷の駅まで戻ってみたら、もう山の手線の最終はなかった。俺はそこで初めて、彼女に千円借りようと思っていたことを思い出した。ポケットには300円くらいしかなかった。

 

渋谷…原宿…代々木…新宿…新大久保…高田馬場…目白…池袋。駅間を徒歩でいくとざっくり30分ぐらいだろうか。4時間歩けば帰れるっていう計算だ。

 

トボトボトボトボと歩いた。一歩踏み出すと一歩分前に進む。その繰り返しだ。そうやってなんとか新宿までは歩いた。その時点で午前2時ぐらいだ。ふと見るとビルとビルの間に放置自転車が山のように積まれている。それで心動かされないほど俺は強くなかった。とにかく走りそうなものを見つけるとそれに跨った。

 

タイヤの空気が甘くて少し重かったけれど、これは良い。これは良いぞ。一歩前に踏み込むと10歩分くらい進む。しかも座っていられる。

 

調子に乗って高田馬場まで来た。朝、日雇いの仕事を得るために人が並んでいる公園の所まで来た。ここら辺りまで散歩がてら歩いて来たこともある。もう少しだ。もう少しで横になって眠れる。そう思った時、パトカーから警官が降りてきて誰何された。

 

その自転車は誰のものか?いや、自分のっす。本当か?本当す。でも、この登録証見ろ、宮城県の自転車だぞ。え?あ、スイマセン。良いから乗りなさい。

 

俺はパトカーに乗せられて新宿の警察署まで連れて行かれた。

 

持ってるもの見せろ。は?持ってるものを全部ここに見せるんだよ。はぁ、何にもないす。その袋の中は?鯛っす。鯛とソーセージと…。俺は警察署のスチール製の机の上に引き出物を並べて行った。ああ、もう良い。もう良い。

 

これは窃盗だからねと叱られ、片方の警官は「じゃあ、もう帰しますか」って言ってるのに、もう一人が「身元確認しないと」とつっぱねたお蔭で、親に電話までさせられた。情けないことこの上ない。

 

解放された時には夜が開けていた。新宿駅から電車に乗って池袋に帰った。山の手線はあっという間に俺を池袋まで連れて行ってくれた。ギリギリ電車賃があって本当に良かった。

 

下宿に戻って焼酎を飲んで寝た。そんな何でもない話だ。

 

写真は銀座だけれど。