ジグ・ノート

備忘録のような形でつらつらと…

Simon says.....

最初にイギリスに行った時、語学学校は迷わなかった。なにしろ何も分からないから、友人の勧めを鵜呑みにするしかなかった。そう言うと悪かったみたいだけれど、とても良かったんだ。

 

最初に施設の説明をされる。図書室に案内されて、新聞を何誌か紹介された。「これは比較的リベラル、これは保守的、これも保守的だけどリベラルな面もある」

 

そこまではっきりと俺たちは、外国の人に自国の新聞の傾向を紹介できるかな。できても、なんかもっと歯切れの悪い感じになるような気がする。誰に遠慮する必要があるわけでもないはずなのに。

 

文法的なことをやったり、テキストの問題を解いたりしながら、午後は会話が中心になる。

 

Simonという先生が居た。ゲームをしたり(それこそ本当にSimon says...とかやったんだ。彼がリーダーになって、「Simon says」と言い始めた時だけ、その後の指示にみんなは従わなくてはならないってやつね。ただ「Shake your hand」って言われても振っちゃダメ。「Simon says "Shake your hand."」って時だけ手を振るってこと。最初、みんな立ってて、間違えた人から座って行くってやつだ)

 

その頃、俺はまだタバコを吸っていて、校舎の入り口にあった喫煙所で紫煙を吹き上げていた。Simon も吸いに来た。彼は巻きタバコを吸っていた。そのペーパーを入れるフリスクくらいの箱の角が丁寧に切り取られているのを見た同級生が「お前は悪いことをしてるな」って言って、Simonはウインクをした。良く意味が分からなかった。分からなかったけれど、何かドラッグ関係のことの感じがした。

 

ある時、授業の中で、「お前たちはもうSohoに行ったか?」と尋ねてきた。Sohoと言えば、新宿の歌舞伎町みたいな歓楽街だ。「Sohoに何があるんだ?」と聞くと「Soho has everything!」と彼は答えた。

「You need a woman? Soho has! You need a boy? Soho has!」

そんなさばけた感じの先生で、俺たちはみんな彼の授業を楽しみにしていた。

 

あるSimon の授業で彼は細く切った紙を束ねて持ってきた。全員を3つのグループに分け、ひとつのグループにその紙の束を10枚ほど渡した。よく見るとその紙には一枚に一行ずつ英文が書いてある。John Lennonの「Working class hero」という歌の歌詞だった。それが一行一行バラバラにされて、ランダムに配られたのだった。

 

「それを順番に並べ替えろ」

そう言われた。その曲を知っていた俺はちょっと得意で「俺に任せろ。俺はこの曲知ってるし、ギターで弾いて歌ったこともある」そんなことを言いながら並べ替えていった。

 

しばらく時間が経って、Simonは、それぞれのテーブルに置かれた紙片の順番なんか確かめもせずに、おもむろに「じゃあこれから説明をする」と言って、イギリスの階級制度について説明をしてくれた。

 

「イギリスにはアッパークラス・ミドルクラス・ワーキングクラスっていう3つのクラスがある。アッパークラスは貴族たちだ。お前たちがテレビで女王とかを見るだろ、あの仲間がアッパークラスだ。そしてミドルクラスは医者とか弁護士とか教師とか。ワーキングクラスはそれ以外、ネクタイを締めない奴らだって考えて良い。そしてそれは変わらない。努力は関係ない。ミドルクラスの家に生まれたらミドルクラスで、ワーキングクラスの家に生まれたら、一生ワーキングクラスだ」

 

俺たちは自然に(いつもふざけているような17歳のやつまでも)真剣に聞き入った。

 

「クラスが違えば、服も違う。遊びに行く所も違う。飲みに行くパブも違う。読む新聞も違う。喋ってる英語だって全然違う。お前たちは分からないかもしれないが、俺たちは見ればすぐにそいつのクラスは分かる。ジョンレノンは、ワーキングクラス出身だ。だからこの歌を作った。ワーキングクラスの家に生まれたら億万長者になっても、彼はワーキングクラスなんだ。彼の子どもは違う。彼の子どもは億万長者の息子ってことで、ミドルクラスになれる」

 

あるヤツが質問した。

 

「それはひどいことじゃないのか?」

 

「そうかも知れない。ワーキングクラスの奴らは、教育がない。ミドルクラスはそうやってワーキングクラスを馬鹿にする。だけど、ワーキングクラスの奴らはミドルクラスの奴らを、あいつらは金のことばかり考えて、二枚舌を使うと言って馬鹿にする。それぞれがそれぞれとして棲み分けて生きているんだ」

 

そんな話が1時間続いた。本当にあっという間だった。「お前たちはイギリスに来ているんだから、イギリスのことを知らなくてはいけないからな」最後にそう言った。

 

もう一度言うけれど、俺たちは自国のことを外国人にこうやって説明できるだろうかって思うんだ。お前たちは日本にいるんだから、日本のことを知らなくていけないからなって、自分たちの生活の有り様の深いところを、限界も恥も含めて説明できるんだろうか。そしてそれを授業として、ほんの3週間のステイの外国人に提供できるんだろうかって。