ジグ・ノート

備忘録のような形でつらつらと…

コミュニケーションスキル あるいは正しい英会話

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マルタ島にあるホテルの前で、パーチャビルという繁華街まで行くバスを待っていた。

 

マルタ人はマルタ語を話す。しかし観光が重要な産業なので英語も公用語として使われる。そこで、ヨーロッパの非英語圏の人たちが、バカンスも兼ねて英語の勉強をしに来る。最近はアジアからもマルタの語学学校に行く人たちがポツポツ来始めた。

 

俺もそんな日本人のグループをケアするという仕事でその地に居たのだ。学生たちをホテルに送り届け、一息ついて、俺のステイ先の寮に戻る所だった。夕食後に学生たちは、ダンスパーティーでもうひと盛り上がりするようだが、それはペアの担当にしてあった。

 

バス停に居る俺の目の前にはヨットが停泊し、そのマストと同じようにユラユラと海水浴をしている人たちが見える。マルタの井戸端会議は、ああやって海中で浮かびながら行われると聞いた。

 

バスはまだ来ない。俺はぼんやりとしていた。夕方になって漸く日差しが緩んだことで、からだがホッとしているような感じだ。

 

バス停には高校生くらいの男の子が二人、先にバスを待っていた。金髪と黒髪。オタクっぽい感じで、金髪はスマートフォンをあれこれ操作して、黒髪はラップトップコンピュータを膝の上に置いて、やはりあれこれ操作していた。耳にイヤホンを指しているから、何か動画でも見ているのかもしれない。

 

そこに長い生足を魅せつけるようにして、彼らと同じくらいの年格好の女の子がやって来た。彼女もイヤホンを付けて、こちらは音楽でも聞いているようだ。ざっくりと麻で編んだショルダーバッグをゴソゴソすると、財布を取り出しながら男の子たちの前を通り過ぎた。

 

その時、俺も見ていたのだけれど、バッグの中からキャンディをつまみ上げると、ポイっと足元に捨てた。

 

ラップトップくんがイヤホンを外し、コンピュータを閉じる。そしてひょいとそのキャンディをつまみ上げ、怪訝そうに見つめる。そして彼女の肩をちょんちょんと叩いた。「ゴミを捨ててはいけないよ」的なやり取りが始まるのかと思ったが、そうではなかった。

 

彼らのたどたどしい英語から、語学学校に来ている生徒たちだってことが分かる。

 

以下、俺のおぼつかない聞き取りと解釈でそのやり取りを再現してみる。

 

「えーと、これ君が落としたんだよ」

「ええ、捨てたの」

「そうなんだ…(もう一度、そのキャンディを見て)…チョコレート味のキャンディは嫌い?」

「ええ、嫌い」

「そうだね、チョコレート味のキャンディなんて、チョコレートと同じだもんね。どんな味が好きなの?」

「あたしは、ミントが好き」

「ふうん、僕も好きだなぁ…どこから来たの?僕はロシア」

「あたしはスロバキア

スロバキアのなんていう街?」

「知らないと思うわ。小さい街だから」

「何ていう街?」

「◯◯◯」

「うん、知らないや。(笑)人口はどれくらいなの?」

「10000人くらいよ。小さいの」

「ふうん、僕の街も小さいよ。◯◯っていうんだけど、知らないよね。(女の子は微笑みながら首を振る)だよね(笑)何人くらいだろう?」

(とスマフォくんに。スマフォくんは顔を上げずに)

「18000人」

「だって。僕の町は18000人。彼の町が15000人。彼の方が田舎なんだよ」

「人口と田舎とは別だろ」(笑)

「マルタには二人とも一緒に来たの?」

「ううん。こっちで知り合ったんだ…ねえ、名前聞いても良いかな?僕は△△」

「あたしは☓☓」

「パーチャビルに行くの?」

「そう」

「ふうん。クラブ?」

「うん。『アックス』」

「じゃあ、会うかも知れないね。僕たちもあっちで待ち合わせしてる友だちがいるんだ。クラブに行くかはまだ決めてないけど」

 

そうやって、彼らはバスが来たら一緒に乗り込み、ずっと話を続けていた。スマフォくんも途中から積極的に話しに加わったり、またスマフォをいじったり。ラップトップくんもガツガツ話し続けているわけじゃなくて、景色を眺めたりウトウトしたり。ごく自然にああやって知り合いになっていく。

 

多分、次にこのホテルの中で会ったら、一緒にレストランで食事をしたりもするのだろう。

 

このジャブから始まって、会話を拒否されていないと分かると少しずつ個人的な話題になり、やがて名前の交換をしていく。正直言ってそのスキルは羨ましい。多分、彼らはそれをスキルなんて思っていないだろうけど。俺は自分がナンパと他人行儀の2つしか会話術を持っていず、ナンパの方は実践が伴わないということがとても残念だ。