ジグ・ノート

備忘録のような形でつらつらと…

海にいるのはあれは波ばかり

朝の教室は初夏の日差しが入り込みホコリがブラウン運動をしているのがはっきり分かる。担任の先生は、まだひっそりとしている早朝の教室を鼻歌交じりに掃除している。漸く登校してきた生徒は、昨日風邪で休んだ女子生徒だった。

 

「具合は大丈夫なの?」

「あのさ、先生、本当は風邪じゃなかったの」

担任は、掃除の手を止めずに、ふうんと頷く。

「どしたの?」

「天気がさ、すごく良かったじゃない?昨日」

「うん」

「風もいい感じで」

「うん」

「来週になったら中間試験で」

「うん」

「それが終わったら期末で夏休みで、今年は受験生だから、夏休みって言ってもそうは言ってられないし」

「だから、何なんだよ。海か?」

「そう。良い波だったぁ」

 

そう言って遠い目をしながらオール5の特待生が笑っている。

 

担任の彼は、このクラスを受け持ってから、折に触れ言ってきた。どうしてみんなこんな気持の良い日なのに学校に来るんだ?って。決して嫌味なんかで言ってきたわけじゃない。その彼の教育の成果が現れたって訳だ。

 

大人になったら、仕事なんだからそうそう休んだりできないさ。学生が、晴れた日にサボったりしないで、いったいいつ「ゆとり」を手に入れることが出来るのさ。

 

「そうか、良い波かぁ」

 

そう呟いて微笑む担任も、遠い目をして窓の外を見上げる。良いじゃないか、国なんて滅びたって。若い奴らがふらっと海に行くことが出来るなら。

 

 

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