ジグ・ノート

備忘録のような形でつらつらと…

コミさんから満鉄小唄

田中小実昌のことで、彼の名前が俺たちの中で話題になった最初は、月刊プレイボーイのロングインタビューで「包茎手術したらオナニーの時に遊びがなくなって困った」的な発言をしているのを読んだ時だ。

 

それまで田中小実昌という人は、コミさんコミさんと呼ばれて、時折深夜番組に出てくるストリップ好きなオッサンという認識しかなかったから、女子高生みたいに「不潔っぅ!」という感じというか、う〜ん、あんなふうな存在感ではモテないのじゃないかっていう、所謂、世間一般のオッサンを見るのにちょっと輪をかけた程度の認識でいた。

 

それが「オナニー」だ。少年時代には大人もオナニーするなんてそうそうは思えなかった。調べてみると、コミさん55歳の時のインタビュー記事だ。

 

「あれ読んだ?」「読んだ読んだ」「すげえな、あのオッサン」「あぁ」

 

そんな話を友人とした。

 

村上春樹が群像新人賞を受賞した年、79年に直木賞を受賞した。その受賞を受けてのインタビューだった。その記事に「オナニー」って。

 

時代は、汗の匂いを失って「そういうものだ」と呟きながら、同時に饐えたような語り口を併存させていた。

 

そうして読んだのが『乙女島のおとめ』だった。集英社文庫を下町の古本屋で買ったんだと思う。そして改めてびっくりしたのだ。唯のストリップ好きなオッサンじゃない。筋金入りのオッサンだ。

 

ディランⅡというグループのデビュー・アルバムは『きのうの思い出に別れをつげるんだもの』というものだが、そのB面(レコードだからね)の最後、俺は最初気付かなかったんだけど、タイトルクレジットも何もないのに、雨降りの音の向こうから、幽かに歌声が聞こえた。

「雨のしょぽしょぽ降るパンに〜カラスのマトからのそいてる〜満鉄の金ポタンのパカ野郎〜」

 

今はそれが「満鉄小唄」というタイトルらしいことも知っているが、当時は何の手がかりもなく、秘密を覗き見た不思議な魅力を感じただけだった。

 

真崎・守の『はみ出し野郎の伝説』という劇画にも、この歌詞が登場する。

 

今、ちょっとググるとあっという間に動画までヒットする。大島渚の『日本春歌考』の挿入歌として使われていたとか。東映映画『まむしの兄弟』にも使われていたとか。しかし、当時は「?」をたくさん抱えたまま、その魅力をしゃぶり続けることしかできなかった。

 

そして『乙女島のおとめ』に「早く精神、決めなさい」っていう歌詞の「精神決める」っていう言い方が面白いって書かれていた。朝鮮人慰安婦のお女郎さんが、自分の楼に上がるのか上がらないのか、「早く精神を決めなさい」って。

 

そうなんだ。コミさんは「言葉」の人だった。だから後に『ポロポロ』っていう、とても難解な哲学小説を書くのだった。